【まとめ】会社員の個人所得税の考え方⑧【節税の4つのパターン】
前回の税金カテゴリーの投稿では、個人所得税における、海外不動産を用いた節税と、その規制について、学びました。
<参考記事>
【海外不動産による節税】会社員の個人所得税の考え方⑦【減価償却費の赤字は通算不可に】
「節税」と一口に言っても、様々なパターンがあります。
個人所得税の計算では、所得の種類ごとに、「収入」から「必要経費」を差し引き「所得」を算出し、それらを合算した「総所得金額」から「所得控除」を差し引いた金額を基に、税額を計算し、その税額から、「税額控除」を差し引き、実際の納税額を算出します。
「節税」を検討する際には、基本的には、「必要経費」や「所得控除」「税額控除」として差し引かれる金額を、いかに増加させるか、考えることになります。
足元の年度で「節税」された税金について、将来全く支払う必要のないケースもある一方、「課税の繰り延べ」に過ぎず、将来の税金が増えてしまうケースもありますので、今回は、個人所得税における、「節税」のパターンについて、整理したいと思います。
永久的な節税
足元の年度で「節税」できた金額が、将来も支払う必要がない場合、永久的に節税できたことになります。
当年の「節税」の効果が、将来に渡り継続するという点で、「永久的な節税」は、定性的には、もっとも効果の高い節税策と、言うことができます。
所得控除・税額控除
「給与所得」のみを得る会社員にとっての、限られた節税手法として「所得控除」や「税額控除」の活用があります。
<参考記事>【様々な節税方法】会社員の個人所得税の考え方②【ふるさと納税と住宅ローン控除】
「医療費控除」や「住宅ローン控除」が該当し、これらの控除を活用することで、当年に「節税」の効果を享受でき、将来の税金が増えることもありません。
ただし、これらは政策的な側面が強い制度で、医療費や住宅ローンなどによる負担を、税の観点から軽減する趣旨となるため、積極的な節税策とは、なり辛いかも知れません。
必要経費の計上
会社員が「給与所得」のみならず、「雑所得」「事業所得」「不動産所得」などを得ることで、「家事関連費」のうち、これらの「所得」に紐付く費用を、「必要経費」とすることができます。
<参考記事>【副業の必要経費と損益通算】会社員の個人所得税の考え方③【雑所得と事業所得】
例えば、家賃・光熱費・通信費・車両代・書籍代・セミナー代・飲み会代などが該当し、「給与所得」のみを得る会社員には、「必要経費」とする余地がなかった費用の一部を、経費とすることができます。
従前から支出額が変わらないにもかかわらず、「所得」の種類が増えることで、将来に渡り効果が継続する「節税」ができ、会社員の節税策にとっての、大きな進歩となります。
特別控除の利用
会社員が「給与所得」に加えて、「事業所得」や「不動産所得」を得ていれば、「青色申告」を申請するとこで、「青色申告特別控除」を活用することができます。
<参考記事>【副業の事業所得には高いハードル】会社員の個人所得税の考え方④【開業届は1カ月以内】
「青色申告特別控除」は、「収入」から、通常の「必要経費」に加え、一定額の特別控除を、差し引くことが可能な制度です。
帳簿記帳の手間などは増えるものの、何ら追加的な支出をすることなく、将来に渡り、毎期の税金を「節税」できる、非常に強力な節税策となります。
「青色申告」は、「青色申告特別控除」のみならず、翌年以降への「損失繰越」も可能としますので、「事業所得」や「不動産所得」を得る場合には、「青色申告」とすることを、強くおすすめします。
一時的な節税
足元の年度での「節税」は、「課税の繰り延べ」に過ぎず、将来、税金が増加してしまう場合には、「一時的な節税」となります。
「一時的な節税」は、定性的には、「永久的な節税」より劣る節税策となりますが、納税者の意思で、比較的大きな金額を、年度を跨いでコントロールできるという意義があります。
減価償却費
会社員が「給与所得」に加え、「不動産所得」を得る場合の「減価償却費」が、「一時的な節税」の典型例となります。
レバレッジをきかせて、中古物件を購入すると、短い耐用年数で「減価償却費」を計上することができ、初期段階では「実際に支出する現金以上に、税メリットがとれる」状態になります。「減価償却費」は「課税の繰り延べ」による「一時的な節税」で、将来の税金支払いは増加するとしても、納税者が、その事実をしっかり認識し、Cash Flowマネジメントできるのであれば、効果的な節税策となり得ます。
<参考記事>【レバレッジで不動産所得】会社員の個人所得税の考え方⑤【減価償却メリット】
また、不動産にかかわらず、「必要経費」に算入される「車両代」なども、中古車購入により、短い耐用年数で「減価償却費」を計上することができますが、これらも「一時的な節税」となります。
投資等の控除
「減価償却費」ほど多額ではないものの、iDeCoや小規模企業共済などの、将来の年金的な性格を有する投資は、「所得控除」を通じて、当年の税金を「節税」する効果があります。
これらも、受取時などに一部優遇措置はあるものの、基本的には、「課税の繰り延べ」による、「一時的な節税」となります。
税率差を利用した節税
「節税」が、本質的には「一時的な節税」であっても、税率差を利用して、結果的には「永久的な節税」とできる場合もあります。
所得の種類により税率差が生じる場合や、個人の累進税率の差に起因する場合などで、ネットで考えると、「永久的な節税」が達成できることになります。
所得の種類による税率差
典型例は、不動産投資で、「減価償却費」により「一時的な節税」のメリットを、「不動産所得」として得たあと、物件売却により、「減価償却費」累計額相当の「売却益」が、「譲渡所得」として実現する場合です。
「減価償却費」の節税メリットを、「不動産所得」として「総合課税」の高い累進税率で享受し、「売却益」による税金の増加は、「譲渡所得」として「分離課税」の低税率で課税されることにより、本質的には「一時的な節税」であったとしても、税率差により「永久的な節税」が達成できます。
<参考記事>【不動産所得のデッドクロス】会社員の個人所得税の考え方⑥【税金支払いを軽減するコツ】
個人の累進税率の差
個人の累進税率の違いによる「節税」も考えられ、例えば、高額な「給与所得」があり、「不動産所得」の「減価償却費」の節税メリットを、「総合課税」の高い累進税率で享受したあと、税金増加に転じる際には、「給与所得」が少額で、累進税率が低下する場合、税率差による「永久的な節税」が達成できます。
また、「青色申告」による「青色事業専従者給与」を活用することで、累進税率の高い納税者本人から、累進税率の低い配偶者等に、所得が移転し、家計全体での「収入」は不変であったとしても、両者の累進税率の差による「永久的な節税」が達成できます。
必要経費の支払増加による節税
「雑所得」や「事業所得」「不動産所得」の、「必要経費」となる支出を増加させると、現金は流出するものの、その分、経費が増え、「節税」できます。
確かに、税金支払いは減りますが、それ以上に現金が流出してしまうため、これを「節税」と呼べるかは、議論があります。この点、「必要経費」の増加が、単なる無駄遣いではなく、「収益」の増加に必要な、追加的コストであるかが、判断の基準になると考えます。
例えば、いつもよりグレードの高い店で会食することが、将来の「収益」の増加につながるのであれば、会食費を「必要経費」とすることで、実質的には、税後のネット額で、「収益」増加のチャンスを得られることになります。
まとめ
今回は、会社員の個人所得税における、節税のパターンを、まとめました。
「給与所得」のみを得る会社員の「節税」は、主に「所得控除」や「税額控除」の活用になりますが、これらは、政策的に定められた制度でもあり、積極的な節税策として活用するのは、難しい部分もあります。
一方、「給与所得」に加え、副業からの「雑所得」または「事業所得」や、不動産投資からの「不動産所得」を得ることで、「節税」の可能性も、大きく広がります。
「節税」には様々なパターンがあり、「永久的な節税」「一時的な節税」「税率差を利用した節税」「必要経費の支払増加による節税」の、いずれの類型であるか意識して、「節税」を実施することが、重要です。
さて、次回は、会社員の個人所得税から離れて、消費税について、語りたいと思います。