【レバレッジで不動産所得】会社員の個人所得税の考え方⑤【減価償却メリット】

前回の税金カテゴリーの投稿では、会社員の副業が、「雑所得」ではなく、より有利な「事業所得」に区分されるための条件を、学びました。

<参考記事>
【副業の事業所得には高いハードル】会社員の個人所得税の考え方④【開業届は1カ月以内】

今回は、会社員が、「給与所得」とは別に、不動産賃貸により「不動産所得」を得る場合について、語りたいと思います。

不動産投資は、会社員が、その属性を活かし、金融機関から借入を行うことで、手元資金と比較し、より大ききな規模の収益性資産を、レバレッジをかけて取得するものです。

ファイナンス理論によると、「資産収益率>借入金利率」であれば、レバレッジを活用することで、手元資金からのリターンがより大きくなるため、「純資産」の増加を加速させることができます。一方、空室リスクなどが顕在化し、「資産収益率<借入金利率」となれば、「純資産」は毀損します。

また、不動産投資では、適切なCash Flowマネジメントが重要となり、このCash Flowに大きな影響を与えるのが税金です。個人で不動産を持つことを前提にすると、不動産賃貸は「不動産所得」に区分され、税金知識を活用することで、様々な、節税メリットが得られます。

不動産所得の税金

個人の税金の計算は、所得の種類ごとに、「収入」から「必要経費」を差し引き「所得」を算出し、それらを合算した「総所得金額」から「所得控除」を差し引いた金額を基に税額を計算し、その税額から、「税額控除」を差し引き実際の納税額を算出する、との流れです。

「不動産所得」は、「総合課税」となるため、「給与所得」などと合算して「総所得金額」を計算したうえで、累進税率に基づき、税額が算出されます。

「不動産所得」の特徴として、「必要経費」に、物件の「減価償却費」が多額に含まれる点があります。また、「不動産所得」が赤字となる場合、他の所得との「損益通算」が可能で、通算後に損失が残る場合でも、「青色申告」により、「損失繰越」が可能です。さらに、「青色申告特別控除」などにより、「必要経費」を増やすことも可能です。

減価償却費

「不動産所得」の特徴である「減価償却費」を活用することで、物件取得後しばらくは、実際の現金支出以上に、「必要経費」を計上することが可能となります。

法定耐用年数

収益性不動産を購入した場合、取得価格を、「土地」と「建物」「設備」に按分し、「建物」「設備」は、税法の定めに基づき「減価償却」することで、各年の「必要経費」を計算します。

木造新築の「建物」の場合、22年で毎期定額償却します。木造中古物件の場合は、「(22年-経過年数)+ 経過年数 X 20%」との計算式で、償却期間を決定します。また、給排水設備などの「設備」は、原則として、15年で償却します。

元本返済と減価償却費の関係

収益性不動産を、レバレッジをかけて買う場合、借入金は「元利均等方式」により、毎月定額返済することが一般的で、返済初期は、支払利息部分の割合が多くなります。税務上は、支払利息部分は「必要経費」となる一方、元本返済部分は、単なる借入金の返済として「必要経費」とはなりません。

元本返済部分が「必要経費」とならない代わりに、別途、「減価償却費」を計算し「必要経費」とするイメージです。ポイントは、借入金の返済初期は、「減価償却費>元本返済」となることです。つまり、レバレッジをかけて収益性不動産を取得することで、「実際に支出する現金以上に、税メリットがとれる」という状態が作り出せます。

これが、「不動産所得」が「節税」になると言われる、大きな理由です。例えば、22年の法定耐用年数を超える木造中古物件であれば、耐用年数は4年となり、「減価償却費>元本返済」の傾向がより強くなり、場合によっては、「不動産所得」の赤字を作り出すことができます。

損益通算

「不動産所得」が赤字となる場合、「給与所得」などの他の所得と「損益通算」が可能となります。

会社員の、通常の副業であれば、「雑所得」ではなく「事業所得」に区分される場合のみ、「損益通算」が可能となりますが、収益性不動産を保有している場合は、「不動産所得」に区分され、「損益通算」が可能となります。

特に、物件取得初年度は、登録免許税・不動産取得税などの支出により、赤字となるケースが多いです。また、上述の通り、比較的古い物件を購入することで、減価償却費が多額に先行し、赤字となる場合もあります。

高所得の会社員であれば、「損益通算」により、高い累進税率が課されている「給与所得」の圧縮効果があり、確定申告を通して、源泉徴収済の税金を取り戻すことができます。

ただし、「損益通算」で「給与所得」の税金を取り戻すことを目的とするのは、本末転倒で、不動産投資である以上、税金を含めた通期のCash Flowが十分確保されるかとの観点で、物件選定をすべきです。

青色申告

不動産事業を開始してから、1カ月以内に「開業届」、2カ月以内に「青色申告承認申請書」を所轄税務署に提出することで、「青色申告」のメリットを受けることができます。

「不動産所得」の場合、「事業的規模」と呼ばれる、「5棟10室」の保有を境に、「青色申告」のメリットが変わります。「事業的規模」に達していなくとも、「青色申告特別控除」や「損失繰越」などのメリットを得ることができますので、会社員の不動産投資であっても、「開業届」と「青色申告承認申請書」の提出を、おすすめします。

青色申告特別控除

「事業規模」に達していない場合の「青色申告特別控除」は10万円となります。通常の「必要経費」に加え、10万円を差し引いて、「所得」を計算できるため、手軽な節税が可能となります。

「青色申告」には、帳簿記帳の義務がありますが、10万円の「青色申告特別控除」の場合、「複式簿記」ではなく、簡単な記帳方法の「単式簿記」を用いることも可能です。

損失繰越

「不動産所得」の赤字を、他の所得と「損益通算」してもなお、赤字が残る場合、「青色申告」により、翌年以降3年間、赤字を繰り越すことができます。

初年度に、物件取得に係る諸費用の支出が生じたり、初期段階で、減価償却費が多額に先行したりして、「総所得金額」が赤字になる場合には、翌年以降の節税策として、非常に有効な手段となります。

家事関連費

会社員が、副業で「雑所得」や「事業所得」を得る場合と同様、「不動産所得」でも、家賃・光熱費・通信費・車両代・書籍代・セミナー代・飲み会代などの一部が、所得と紐付いているのであれば、「必要経費」として計上することができます。

<参考記事>【副業の必要経費と損益通算】会社員の個人所得税の考え方③【雑所得と事業所得】

ただし、純粋な「家事費」は「必要経費」にできない点や、「家事関連費」の中でも、業務遂行上必要な費用のみが「必要経費」とできる点には、留意が必要です。

税率の歪み

収益性不動産の賃貸収入から生み出される所得は、「不動産所得」として「総合課税」される一方、その不動産を売却した時の所得は、「譲渡所得」として「分離課税」されます。

5年超保有の「長期譲渡所得」となる場合、売却益に対して、約20%の「分離課税」となります。例えば、中古物件の短い償却期間により、「総合課税」の高い累進税率のもと、償却メリットを享受し、その後売却し、減価償却累計額相当の売却益がでたとしても、「分離課税」の低税率が課されることになります。

米国税制などでは、既に償却メリットを得た部分は、売却時にRecaptureして、高税率を課す仕組みがありますが、現状の日本の税制では、そのような対応はありません。そのため、収益性不動産から、先行して減価償却メリットを得たあと、売却によりExitすることで、税率の歪みを利用してCash Flowを得るとの、プランニングも考えられます。

<参考記事>【赴任後3年内の売却でメリット最大化】米国駐在員の留守宅売却に係るアメリカ税金【最大50万ドルの非課税枠】

まとめ

本業で「給与所得」を有する会社員にとって、「不動産所得」は、「減価償却費」や「損益通算」にくわえ、「青色申告」による「青色申告特別控除」や「損失繰越」により、税金プランニングの自由度が高まります。

特に、「減価償却費」を活用することで、「実際に支出する現金以上に、税メリットがとれる」という状態を作り出せることは、大きな魅力となっています。

ただし、短い償却期間で「減価償却費」を計上するということは、のちに、「減価償却費」が無くなり、税金負担が増加することを意味します。そのため、「減価償却」を通じて、単に「税金支払いを繰り延べているだけ」との実態もあり、これをCash Flowマネジメントに織り込んでいないと、中長期的には、不動産投資が失敗することになります。

次回は、いわゆる「デッドクロス」と、その対応策について、語りたいと思います。

<次回記事>
【不動産所得のデッドクロス】会社員の個人所得税の考え方⑥【税金支払いを軽減するコツ】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です