【副業の事業所得には高いハードル】会社員の個人所得税の考え方④【開業届は1カ月以内】
前回の税金カテゴリーの投稿では、会社員が「給与所得」以外に、副業として、「雑所得」や「事業所得」を得ることで、「必要経費」を計上する自由度が、大きく向上すること、「事業所得」は「雑所得」と比べて、「損益通算」や「青色申告」により、有利な取り扱いとなることを、学びました。
<参考記事>
【副業の必要経費と損益通算】会社員の個人所得税の考え方③【雑所得と事業所得】
今回は、「雑所得」と「事業所得」の区分や、「事業所得」で「青色申告」するための条件などについて、語りたいと思います。
雑所得と事業所得の区分
「事業所得」に区分され、有利な取り扱いを受けるためには、様々な要件を充足する必要があります。一方、「雑所得」は、10区分ある所得のうち、「事業所得」など、他の9区分のいずれにも属さない所得、との位置付けにあります。
「事業所得」と「雑所得」には明確な線引きはなく、過去の判例などを参考に、実態に基づき、以下を総合的に判断して決定することになります。
ポイントは、自己の意思のみならず、「社会通念上も事業と認められるもの」との外形的な判断要素が入ってくる点で、一般的には、副業の規模が、本業の「給与所得」と比べて、著しく限定的であれば、「事業所得」に区分することは、難しいと考えられます。
営利性・有償性
対価を得て行われる経済行為であること。
売上等の規模について、明確な線引きがある訳ではありませんが、生活を賄える程度の規模になっていることが、一つの目安とも考えられます。
継続性・反復性
反復継続して遂行する意思があり、かつ、社会的地位が客観的に認められるもの。
休日を利用して収入を得たり、投機的な収入を得るような場合は、「事業所得」とは認められづらいです。
自己の危険と計算
自らリスクと責任を取って、独立的に営まれていること。
商品を仕入れたり、経費をかけたり、事業のために自ら労力を費やしていることが、客観的に認められる必要があります。
開業届の提出
「事業所得」に区分される場合、開業後1カ月以内に、所轄税務署に「開業届」を提出する必要があります。「開業届」では、開業日を記入すると共に、「事業所得」「不動産所得」「山林所得」の中から、所得の種類を選択する形式となっています。
「開業届」に記載する開業日は、次に解説する「青色申告承認申請書」の提出期限にも重要となりますので、開業後1カ月以内に「開業届」を提出することを、忘れないようにしましょう。
悩ましいのは、所得の区分が、「事業所得」「雑所得」で、判断がつきづらい場合です。「開業届」が受理されたからといって、税務署が「事業所得」として認めたという訳ではないのですが、「開業届」を出さないと、後続処理が進まないとの問題もありますので、迷うのであれば、「開業届」を出しておくことを、おすすめします。
事業所得の青色申告
副業の規模が一定程度あり、「事業所得」に区分できそうであれば、「青色申告」の要件を充足し、適切に届け出ることで、更なる、税メリットを享受することができます。
青色申告の要件
「事業所得」を有する場合、「複式簿記」で記帳し、確定申告書にBS(貸借対照表)・PL(損益計算書)を添付し、申告期限内に申告することなどを条件に、「青色申告」を選択することができます。
「単式簿記」でも、「青色申告」する方法はありますが、その場合、「青色申告特別控除」が大幅に削減されてしまいます。かつては、簿記の知識がないと、「複式簿記」での記帳は難しかたのですが、今では、クラウド会計の普及により、手軽に「複式簿記」の帳簿を作成することができますので、「青色申告」のメリットを最大限活かすため、「複式簿記」を選択することを、おすすめします。
青色申告の届け出
「青色申告」の要件を充足したうえで、所轄税務署に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。
開業に伴い「青色申告」を申請する場合は、開業後2カ月以内、すでに事業を開始している場合は、対象となる年の3月15日までに、申請書を提出する必要があります。
青色事業専従者給与の届け出
配偶者や家族への給与支払いを「青色事業専従者給与」として「必要経費」とするためには、事前の届け出が必要です。
すでに事業を開始している場合は、「青色申告承認申請書」と同様、その年の3月15日まで、開業に伴う場合や、年の途中から事業専従者が働きだした場合は、それらの日から2カ月以内に、申請書を提出する必要があります。
まとめ
会社員が「給与所得」以外に、副業から収入を得ることで、これまで支払うのみであった、家賃・光熱費・通信費・車両代などの一部を、「必要経費」として計上できるメリットがあります。
副業を「雑所得」ではなく、「事業所得」として区分できれば、「損益通算」や「青色申告」などの、更なる税メリットが得られますが、「給与所得」と比べて、副業の規模が限定的であれば、「事業所得」として区分するハードルは高くなります。
一方、副業の規模が大きくなり、収益が増加すれば、「事業所得」として区分することが可能となり、「青色申告特別控除」や「青色事業専従者給与」のような、節税余地が大きくなりますので、「給与所得」以外に、収益性ある副業を持つことは、税の観点からも、非常に効率的といえます。
次回は、会社員が、不動産賃貸により「不動産所得」を得る場合について、語りたいと思います。