【DeductionとCredit】米国駐在員のForm1040申告における各種控除【ITIN申請には旅券所持証明が必要】

前回は、駐在員の個人所得税申告における、各種所得について、適用される税率や、損失の利用制限の観点から、留意点を述べました。

<参考記事>【リファーラル収入は申告要】米国駐在員の各種所得に係るアメリカ税金【譲渡益・譲渡損の課税関係】

今回は、所得や税額から控除される、様々な「Deduction」や「Credit」について、語りたいと思います。

米国の個人所得税申告書「Form1040」では、各種所得を合計した「総所得」に、一定の調整を行った「調整後総所得」(AGI: Adjusted Gross Income) から、「Deduction」 を差し引き「課税所得」を算定し、税率表に基づき、「税額」を計算します。さらに、この「税額」から、「Credit」などが差し引かれ、「納税額」が決まります。この「納税額」を、源泉徴収済の税金と比較し、過不足分を、還付又は支払いする、との流れになります。

「Deduction」や「Credit」は、日本語ではいずれも「控除」と言われたりもしますが、「Deduction」は、税前の課税所得から差し引く「必要経費」的な概念、「Credit」は、税額そのものを減額する概念となります。

Deduction

まず、「Deduction」 について、「Standard Deduction」  と「Itemized Deduction」  の、いずれか大きい金額が、控除の対象となります。

日本語訳すると、「Standard Deduction」は「標準控除」、「Itemized Deduction」 は「個別控除」になります。

Standard Deduction

「Standard Deduction」は、概算経費的なもので、個別に控除項目を集計しなくとも、適用できるものです。

「Standard Deduction」は、トランプ税制TCJA(Tax Cuts and Jobs Act)成立により、2018年から大きく引き上げられ、2019年申告では、夫婦合算申告で24,400ドル(個別申告は12,200ドル)となっています。

「二重身分」の場合、「通年居住者」選択することで、夫婦合算課税により、税率引き下げメリットがあると説明しましたが、「Standard Deduction」もその恩恵の一つとなります。

<参考記事>【米国駐在員】アメリカにおける居住者・非居住者の考え方【二重身分の有利・不利検討】

Itemized Deduction

「Itemized Deduction」は、個別に控除項目を集計するもので、「Standard Deduction」より大きくなれば、「Itemized Deduction」が有利となります。

「Itemized Deduction」には、「医療費」「諸税」「支払利息」「寄付金」「災害盗難」「その他」があり、算入額には一定の制限が課されます。

例えば、「医療費」として、算入できるのは、「調整後総所得」(AGI) の7.5%を超過する部分になります。

自己の住宅所有に対する優遇処置も、「Itemized Deduction」で考慮されており、住宅ローンの支払利息や不動産税などが、一定の限度額のもとで控除の対象となります。

駐在員の支払う日本の所得税は、「諸税」の対象とすることはできるものの、税前の課税所得から差し引かれる「Deduction」よりも、次に述べる「Credit」の「外国税額控除」を活用した方が、有利な場合が多いです。

なお、従前、会社職務に関連する「ビジネス経費」を自己負担した場合、「Deduction」の対象となったのですが、2018年の申告から、当該控除は廃止されています。

Credit

「Credit」は、税額そのものから差し引く控除となり、代表的な例として「外国税額控除」と「児童扶養家族控除」があります。

外国税額控除

「外国税額控除」は、駐在員の場合、日本源泉給与に係る所得税や、日本の留守宅の賃貸に係る所得税などが、対象となります。

<参考記事>【高い累進税率による課税】米国駐在員の留守宅賃貸に係るアメリカ税金【一時帰国費用の取り扱い・損失の相殺制限】

「全世界所得」に対する「税額」のうち、「国外源泉所得」の比率に相当する額が、控除限度額となります。駐在員の場合、米国では高い累進税率となっている一方、日本では低い税率になっていることが多く、限度額に抵触するケースは、少ないと考えられます。

児童扶養家族控除

扶養家族の子供がいる場合、かつては「Deduction」としての「人的控除」があったのですが、今では「Credit」としての「児童扶養家族控除」に一本化されています。

米国での申告初年度の留意点として、SSN (Social Security Number) を持たない子供に、「児童扶養家族控除」を適用する場合、ITIN (Individual Taxpayer Identification Number) を取得する必要がある点があります。

ITIN申請書W-7を、申告書に添付しIRSに送付すると、申告書の処理とITINの付与をしてもらえるのですが、「旅券所持証明」をあわせて送付する必要があるため、事前に日本領事館に行って、「旅券所持証明」を取得する必要があります。

AMT

最後に、「代替ミニマム税」と呼ばれる、AMT (Alternative Minimum Tax) があり、富裕層の租税回避を目的に、通常に計算した税額に、追加的な税額を加えて、最終的な確定税額を算定するとの考え方になります。

ただし、トランプ税制TCJAにより、2018年より、AMTの免除額が大幅に増額されましたので、通常の駐在員の申告では、AMTによる追加的な支払いが生じることは、少ないものと考えられます。

さて、次回は、駐在員に係る、日米の課税関係について、まとめ記事を記載したいと思います。

<次回記事>
【まとめ】アメリカ駐在員の日米での税金【両国での課税関係の最適化】

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