【スラブ厚と防音性能】マンション購入時の確認ポイント③【ベランダ隔て板とプライバシー】

前回は、マンションを購入する際に、確認すべきポイントとして、「スパン」「柱」「天井」などの、建物や住戸の構造が、「住み心地」へ与える影響について、語りました。

<参考記事>
【ワイドスパンとアウトフレーム】マンション購入時の確認ポイント②【下がり天井に注意】

今回も、引き続き、建物や住戸の構造の「住み心地」への影響として、「床」や「壁」「ベランダ」が、主に、防音性能に与える影響について、述べたいと思います。

マンションで管理組合の活動をすると、一番多く寄せられる苦情は、「騒音問題」になります。

集合住宅である以上、どのような物件でも避けて通れない問題で、最終的には、各居住者の配慮で解決するしかない問題ですが、自らのマンション構造の防音性能を、あらかじめ認識しておくことも重要です。

床の防音への影響

音は、物体が振動し伝わる性質があり、マンションの上階から下階には、床が振動することにより、騒音が伝わります。

重量がある物体であれば、振動しにくくなる傾向にあり、マンションの床が重ければ、それだけ、防音性能が向上することになります。

スラブ厚

スラブとは、床の荷重を支える鉄筋コンクリートの板のことをいい、その厚みのことを、「スラブ厚」といいます。

スラブ厚は、最近のマンションでは、20センチ以上が多く、厚くなるほど、重量が増し、防音性能が高くなる傾向にあります。

スラブの重量が重くなりすぎると、構造上は、別の問題も出てくるため、「ボイドスラブ」と呼ばれる、スラブの一部を中空化し、軽量化する手法もあり、その場合、防音性能は低下することになります。一般的に、「ボイドスラブ」の防音性能は、実際の厚みの80%相当の、通常スラブと同等と言われています。

マンションの物件概要や図面には、スラブ厚やその工法は、記載されていない場合もあるため、マンション販売員に、直接質問することを、おすすめします。

なお、スラブ厚や、その工法による、防音性能は、あくまでも目安であり、実際には、スラブが支える面積の大きさや、壁の構造など、様々な要素に影響を受けます。また、子供が走り回る振動は、いくら防音性能が高いマンションでも、完全に解消することは困難で、最終的には、入居者の気遣いによる部分が大きい点に、留意が必要です。

二重床・直床

コンクリートスラブの上に、支柱を立てて、その上に床材を設置する構造を「二重床」といい、スラブに直接床材を施工する構造を「直床」といいます。

二重床の場合、スラブと床材の間にスペースができ、そこに様々な配管を通せるため、将来大規模なリフォームが実施しやすい、と言われています。

最近のマンションは、二重床の物件が多いものの、デベロッパーの視点では、施工コストが直床より高くなることに加え、縦のスペースを消費することで、土地の高さ制限や、階高・天井高の観点で不利になることもあり、あえて、直床とするマンションもあります。

防音性能の観点からは、同じスラブ厚であれば、直床と二重床で大きな差はないと言われていますが、直床は、直接スラブに振動が伝わるのを防ぐため、クッション材をフローリングの下に施工するとの特徴があります。

そのため、二重床の物件と比較して、直床の物件では、すこしフニャっとした踏み心地になります。モデルルームや、実際の物件を見学する際には、スリッパを脱いで、床の感覚を確かめることを、おすすめします。

戸境壁の防音への影響

マンションの各住戸は、隣戸と壁で仕切らており、この壁のことを「戸境壁」といいます。

「戸境壁」には、「湿式」と「乾式」があり、両者で防音性能が異なることに加え、戸境壁を隔てた、隣戸との間取りの関係が、防音に影響することもあります。

湿式壁・乾式壁

一般的な、中小規模のマンションでは、戸境壁は、柱と柱の間を、コンクリートで仕切る「湿式壁」が採用されています。

分譲マンションの厚みをもった「湿式壁」であれば、十分な重量があり、振動が抑えられることから、隣戸の音が、戸境壁を通じて聞こえることは、ほぼありません。

一方、タワーマンションなどの高層建築では、建物の重量を軽くする必要があり、「乾式壁」と呼ばれる、石膏ボード製の壁が、使用されます。また、中低層のマンションでも、戸境壁を、柱と柱を結ぶ、直線的な形ではなく、複雑な形とするような場合、「乾式壁」が使用されることがあります。

「乾式壁」でも、日常生活での会話やテレビの音などは、隣戸に伝わらないよう、設計されています。ただし、「乾式壁」は「湿式壁」と比較して、軽量であるため、掃除機のヘッドをぶつけるなど、直接壁に衝撃を与えると、隣戸に音が響いてしまう点に、留意が必要です。

モデルルームなどで入手できる図面には、「湿式壁」と「乾式壁」の区別も、記載されていますので、検討する住戸の戸境壁を、事前に確認することを、おすすめします。

隣戸の間取りとの関係

マンションにおいては、他の住戸の水回りの音が、騒音の原因となることもあり、特に、隣戸と戸境壁を挟んで、どのような間取りで接しているか、確認する必要があります。

似たような間取りが連続するマンションの場合、隣戸では、間取りを反転させることが多いです。例えば、風呂場同士が、戸境壁を通して隣接するようにすることで、お互いの水回りが近づき、居室では、水が配管を流れる音が、聞こえづらくなるとのメリットがあります。

マンションの図面を確認する際には、隣戸の水回りが、自らの住戸と、どのように接しているかも、併せて確認してください。仮に、居室と、隣戸の水回りが接している場合は、留意が必要です。

ベランダ隔て板の防音への影響

最後に、ベランダを隣戸と仕切る、「隔て板」の形状について、触れたいと思います。

「隔て板」とは、火災で避難が必要な場合には、蹴破れるよう、薄い素材で作られた、隣戸のベランダとの仕切りとなる板です。この「隔て板」に十分な高さがないと、ベランダに出たときに、隣戸の人の気配を感てしまい、防音性のみならず、プライバシー性も害してしまいます。そのため、「隔て板」がベランダの天井まで、達していることが、望ましいです。

一番望ましいのは、隣戸とのベランダの境が、コンクリート製の壁になっていて、下部の一部エリアのみ、避難用の薄い板が、はめ込まれている構造です。デベロッパーにとって、コンクリート製の壁を作ることは、コスト高とはなってしまいますが、防音性・プライバシー性の観点からは、望ましい作りとなります。

隔て板の形状は、図面から読み取りにくい部分でもあるので、モデルルームや実際の物件で、確認することを、おすすめします。

まとめ

今回は、建物や住戸の構造の中でも、特に、「床」や「壁」「ベランダ」が、防音性能に与える影響について、語りました。

これらの、構造は、図面から読み取ることが困難な場合もあるため、販売員への質問や、モデルルームでの確認、実際の物件を見ての確認などが、必要となることが多いです。

ただし、集合住宅であるマンションで、騒音問題を完全に解決することは困難で、最終的には、各居住者の配慮に依拠する部分が大きいです。そのため、物件のスペックを見て、過度に防音性能に期待すると、入居後、がっかりしてしまうことがあります。

次回は、引き続き、「住み心地」に対する確認ポイントとして、廊下や日照について、語りたいと思います。

<次回記事>
【共用廊下とアルコープ】マンション購入時の確認ポイント④【用途地域の確認】

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