【住宅購入の定量的リスク】海外赴任可能性のある会社員の不動産購入②【近隣中古物件相場との比較は必須】

前回の不動産カテゴリーの投稿では、「駐在可能性のある会社員が家を買うべきか」との論点について、住宅を購入した後、海外駐在することの、定量的なメリットの大きさを、語りました。

<参考記事>
【駐在前がおすすめ】海外赴任可能性のある会社員の不動産購入①【マンション資産価値が重要】

今回は、反対に、定量的な側面からの、リスクを述べたいと思います。

住宅ローンで住宅購入すると、BS (Balance Sheet) アプローチの観点からは、住宅価値がBS左側「総資産」となり、住宅ローン残高であるBS右上「負債」を差し引いた、Net残高が、BS右下の「純資産」となります。

住宅ローンの返済に伴い、「負債」が減少し、「純資産」が増額することで、資産形成が進みます。一方、「負債」減少スピードを超えて、住宅価値である「総資産」が毀損してしまうと、「純資産」が減少してしまうため、住宅価値の毀損リスクを、可能な限り排除する必要があります。

総資産の毀損

住宅価値のうち、建物相当分は、時の経過と共に、減価していくことは、自然なことです。

ポイントは、住宅ローン返済による「負債」減少スピードを超えて、「総資産」が毀損してしまうのを防ぐことで、そのためには、「資産価値」の高い不動産を、購入することが重要です。「総資産」の毀損リスクには、以下があります。

新築プレミアム

新築物件の価格には、純粋な土地や建物の価格のみならず、デベロッパーの広告費用や利益などの「新築プレミアム」が加算されています。そのため、物件を購入し、中古扱いとなった瞬間、一定程度の減価が生じると言われています。

新築物件は、一般的に、所有することによる定性的な満足度は高いものの、定量的には、近隣相場で価格形成される中古物件との比較で、不利になることが多いです。

新築物件を購入する場合、例えば、近隣の築10年の中古物件の価格を、10年後の住宅価値と見立て、10年後のローン残高予想と比較し、「純資産」がどのように変化するかを、予測することが重要です。

市況リスク

不動産の相場は、市況の変動に、大きく左右されます。一般的には、不動産価格は、株価水準に遅行して、追随すると言われています。過去10年ほどを振り返ると、民主党政権・東日本大震災の時代に、不動産価格はボトムをうち、その後、アベノミクス相場・東京オリンピック決定の中で、急激に上昇しました。

僕の廻りで、海外赴任に伴う売却により、大きな利益を出した人たちも、結局、ボトムに近い時期に、たまたま、実需があり、不動産を買っていた、という人がほとんどです。その意味では、現在は、価格が上昇した後の相場となっているため、将来、大きな売却益を出すことは難しいかもしれません。

売却益は難しくとも、価格下落リスクが限定的な物件を見つけることで、賃貸では不可能な、住宅購入による「純資産」の増加を狙うことはできます。その目的にためには、現時点での近隣中古相場に、一定のストレスをかけて、将来価値と見立てたとしても、「純資産」の増加を見込むことができる物件を見つけることができれば、ベストです。

なお、逆の相場観として、資産のインフレがあります。世の中がインフレ傾向にあると予想するのであれば、BS左側の「総資産」は、徐々に上昇していく一方、BS右上の「負債」は、貨幣額でFixされているため、レバレッジをかけて資産を保有しているだけで、勝手に「純資産」が増加することになります。

物件固有リスク

日本では、今後、人口減少・空き家増加が、急激に進むと予想されており、物件の「資産価値」は二極化し、都心部や再開発が見込まれる地域の、駅近物件は、「資産価値」が維持されやすいと言われています。「駅近」の概念も、昔と比べて縮小し、5分程度までとされており、駅直結のタワーマンションなどが、もてはやされています。

僕も、できるだけ都心に近い、駅近物件が良いというのは、海外駐在時の、賃貸需要の観点からも、同意です。ただし、いくら好立地であっても、高値掴みすると、結局は「純資産」の毀損につながるため、特に、新築物件では、高騰した価格付けになっていないか、近隣中古相場と、冷静に比較してみることを、おすすめします。

なお、戸建てにおいても、同様のことが言え、駅から遠い、地価の安い場所に、豪華な注文住宅を建てると、建物の減価スピードが速くなるため、定量的な側面のみを考えれば、「資産価値」の維持に、反することになります。

災害リスク

住宅を自ら所有することは、賃貸と異なり、災害リスクも引き受けることになります。関東地方では、近い将来、強い地震が発生するとの予測もあります。また、近年は、ゲリラ豪雨に伴う水害も多発しています。

災害リスクの予測は非常に困難ですが、不動産を買うのであれば、最低限、自治体などで発行している、地盤マップや水害ハザードマップを確認し、よりリスクの少ない場所を選ぶべきです。

逆に、住宅ローンで住宅購入することで、リスクヘッジとなるのが、団体信用保険です。所有者の身に不幸がある場合、ローン残高が免除される仕組みで、住宅購入には、保険機能が付保されていることになります。この点、災害リスクと保険機能を、定量化して比較することは困難なので、どちらを重視するかは、個人の価値観による部分が大きいと思います。

維持コスト・取引コスト

「負債」の減少スピードを超えて、「総資産」の毀損が進むリスクを、極力排除する必要がありますが、実際の定量的な分析においては、管理費・修繕積立金・固定資産税などの不動産維持コストや、取得・売却に係る不動産取引コストも、併せて考慮する必要があります。

つまり、一見、住宅価値の「総資産」から、住宅ローン残高の「負債」を差し引いた「純資産」が増加しているように見えても、不動産の維持コストや取引コストを勘案すると、「純資産」は目減りしていることもあるため、各種コストを分析に織り込むことが、重要です。

まとめ

住宅ローンというレバレッジを掛けて、住宅購入すると、自らの収入のみに頼るより、「純資産」増加が加速する可能性がある一方、「総資産」の毀損が大きいと、逆に「純資産」は減少してしまいます。

住宅購入を通じて、「純資産」を増加させたいのであれば、不動産の基本的な知識を身に着け、リスクを分析することで、「資産価値」の高い物件を購入することが不可欠です。特に、新築物件では、モデルルームなどで、気持ちが舞い上がりがちなので、近隣の中古物件相場などと、冷静に比較することを、おすすめします。

なお、駐在員の観点から、少し付け加えると、留守宅を賃貸に出すことで、賃貸収入が追加的なローン返済原資となり、BS右上の「負債」減少が加速するため、住宅価値であるBS左側の「総資産」が多少毀損したとしても、Netでの「純資産」の増加は維持できる可能性が高いです。

次回は、「負債」や「純資産」にフォーカスをあて、留守宅賃貸により、住宅ローンの「期限の利益」を喪失するリスクや、住宅購入よりも効率的な「純資産」の増やし方の有無について、語りたいと思います。

<次回記事>
【駐在時の住宅ローン控除】海外赴任可能性のある会社員の不動産購入③【住宅購入が非効率な場合】

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