【課税売上高1,000万円】会社員の副業に係る消費税①【簡易課税制度の有利不利】
前回の、税金カテゴリーの投稿では、主に、会社員の副業や不動産投資の観点から、どのような「節税」のパターンがあるかを、確認しました。
<参考記事>
【まとめ】会社員の個人所得税の考え方⑧【節税の4つのパターン】
今回は、副業などの規模が、一定程度大きくなると、避けて通ることのできない、「消費税」の申告納税義務について、語りたいと思います。
「消費税」については、申告納税義務が、いつから生じるかの見極めに加え、申告方法の、有利不利の判断をする必要もあるため、比較的難しい税目となります。
消費税の概要
消費税は、商品・製品の販売や、サービスの提供などの取引に対し、広く消費者に課される税金です。
消費者から事業者に支払われた税額は、事業者側で納付することとなるため、所得税・住民税などの「直接税」とは異なり、「間接税」と呼ばれています。
最終的に、消費者に購入されるまでの、生産・流通などの取引の各段階に、複数の事業者がいる場合、各事業者は、次の段階への売上で、消費税を預かる一方、前の段階からの仕入れで、消費税を支払います。
各段階の事業者が、「預かった消費税額 - 支払った消費額額」を納付することで、トータルで納付される税額は、最終的な消費者が負担すべき税額と一致します。この仕組みにより、取引の各段階で、二重三重に税が累積しないよう、設計されています。
課税対象取引
消費税は、原則として、「日本国内」において、「事業として対価」を得て、「資産の譲渡・貸付、役務の提供」を行う場合に、課されます。
そのため、会社員の行う副業であっても、これらの3要件を満たせば、消費税の対象となります。副業の場合、特に「事業として対価」を得ているかが、重要になります。
ただし、上記3要件に該当する場合であっても、政策的な背景から「非課税取引」となるものが、全部で17項目あり、住宅の貸付や、土地譲渡、有価証券譲渡、利子、診療報酬などは、「非課税取引」となります。
納税義務者
個人事業者の場合、2年前の暦年での「課税売上高」が1,000万円を超えると、「課税事業者」となり、消費税の申告納税義務が生じます。また、前年の1月1日から6月30日までの期間の、「課税売上高」が1,000万円を超える場合にも、申告納税義務が生じます。
「課税売上高」とは、消費税の3要件に該当する取引のうち、「非課税取引」に該当しない売上高を意味し、この「課税売上高」が1,000万円を超えるかどうかが、重要となります。
新たに開業する場合、基本的に、開業年とその次の年は、申告納税義務のない「免税事業者」となるものの、3年目以降については、「課税事業者」に該当するか、検討する必要があります。会社員個人の副業であっても、規模が大きくなると、「課税事業者」となる可能性がある点に、留意が必要です。
「免税事業者」は、「預かった消費税額 - 支払った消費額額」がプラスであっても、納税の必要はなく、自らの利益とすることができます。この利益は、「益税」とも呼ばれ、所得税や住民税では「雑収入」として、一定の税金が課されるものの、それを差し引いても、利益が残ることになります。
納税額の計算
「課税事業者」となり、消費税の申告納税義務が生じる場合には、「課税売上」と「課税仕入れ」に係る消費税額の差額、すなわち、「預かった消費税額 - 支払った消費額額」を申告納税する必要があります。
通常は、納付ポジションとなることが多いものの、消費税が課されない売上が多い場合や、設備投資などで、多額の消費税支払いがある場合には、還付ポジションとなることもあります。
また、簡易的な申告納税方式として、2年前の暦年の「課税売上高」が5,000万円以下の場合は、「簡易課税制度」を適用することができます。「簡易課税制度」では、「預かった消費税額」に「みなし仕入率」を掛けて、「支払った消費税額」を簡易的に算定することができます。
「みなし仕入率」は、6つの事業区分で、あらかじめ定められており、例えば、「卸売業」は90%、「小売業」は80%と高く、「簡易課税制度」が有利となる場合が多いです。また、「サービス業」は50%と、比較的低いものの、実際には、消費税の課されない人件費が多ければ、「簡易課税制度」が有利となる可能性もあり、個々のケースに即した検討が必要となります。
例えば、設備投資が多額にあり、消費税の還付ポジションになるような場合は、「みなし仕入率」を使用すると、不利な結果となってしまうため、実額を用いて申告することになります。
なお、「簡易課税制度」を適用するためには、適用する課税期間の「開始の日の前日」までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」を、所轄税務署に提出する必要があり、その場合、原則として、2年間、「簡易課税制度」を継続する必要があります。そのため、あらかじめ、2年分の事業計画や、設備投資計画を検討のうえ、「簡易課税制度」の有利不利を判断することが、肝要です。
まとめ
今回は、会社員の副業でも、一定程度の規模となると、避けて通ることのできない、「消費税」の申告納税義務について、語りました。
「消費税」は、比較的複雑な手続きが必要なうえ、「簡易課税制度」の活用検討では、事前に、事業計画や設備投資計画を作成し、有利不利の判断をするという、難しさもあります。
そのため、会社員の副業であっても、「課税売上高」が1,000万円を越え、「消費税」の申告納税義務の開始が見えるタイミングになれば、専門家である税理士の起用を検討するというのが、ひとつの目安と言われています。
さて、次回は、引き続き、消費税の話題として、消費税の還付方法や、消費税がCash Flowに与える影響について、語りたいと思います。