【個人への資金還流】会社員の副業の法人成りの検討③【高税率や社会保険料の軽減方法】

前回の投稿では、会社員の副業の規模が大きくなると、「法人成り」することで、「税率差を利用した節税」や「永久的な節税」の可能性が広がるものの、社会保険料や管理コストの増加などの、デメリットがあることを、学びました。

<参考記事>
【社会保険料の負担】会社員の副業の法人成りの検討②【管理コストの増加】

今回は、会社員の副業を、「法人成り」する場合の、法人から事業主本人への、資金の還流方法について、語りたいと思います。

事業主である個人が、「法人成り」する場合、その法人の実質的な所有者は、その個人となります。ところが、税制の観点からは、これらは、別の納税主体とされるため、例えば、個人の「家事費」を、法人が支払うことは許されず、個人で必要な資金は、法人から、適切に還流する必要があります。

資金還流の際には、法人・個人で、ぞれぞれ、課税関係が生じることがあるため、「法人成り」する場合には、あらかじめ、効率的な資金還流方法を定めておくことが、重要です。

資金還流の課税関係

法人から個人への資金還流方法としては、「役員報酬」や「配当」が考えられますが、累進税率や社会保険料、二重課税などにより、非効率となる可能性があります。

役員報酬

法人の役員である個人に対し、「定期同額」や「事前確定届出」など、税法の定める要件を充足し、給与や賞与を支払うことで、法人側では、支払額を経費として、計上することができます。

一方、個人側では、それらの支払いは「給与所得」として「総合課税」されます。副業を営む会社員であれば、本業の会社からの「給与所得」と合算したうえで、累進税率が課されるため、高税率での税金負担となる可能性があります。

また、「法人成り」すると、社会保険が強制加入となるため、報酬の約30%の社会保険料を、法人・個人で、折半して負担する必要があります。

役員報酬や賞与は、「定期同額」や「事前確定届出」などの要件を、事前に定める必要があることから、「法人成り」する際には、あらかじめ、累進税率や社会保険料の影響も勘案のうえ、適切なレベルを設定する必要があります。

配当

法人から個人に、配当で資金還流する場合、法人レベルでは課税済の利益に対し、個人側でも再度課税されるという、「二重課税」の問題が生じます。

配当の原資は、法人において、法人税・住民税・事業税などが課された後の利益となります。この利益が、事業主本人に配当される際には、「配当所得」として「総合課税」され、累進税率が適用されます。

「配当所得」については、法人・個人での「二重課税」を軽減する仕組みとして、「配当控除」があります。「配当控除」は、税額を直接減額する「税額控除」となり、所得の金額により、控除できる金額が異なります。ただし、会社員が、本業の会社から、比較的高額の「給与所得」を得ている場合、「配当控除」の金額が限定的となり、「二重課税」を十分に軽減できない可能性があります。

配当での資金還流は、利益が確定してから、金額決定できるとのフレキシビリティや、社会保険料の対象とならないとのメリットがある一方、法人と個人での「二重課税」が生じ、税務上、非効率になるとの問題があります。

効率的な資金還流方法

「役員報酬」や「配当」で、法人から個人に資金還流すると、税務上、非効率となる場合がありため、「非常勤役員」や「社宅家賃」「出張旅費日当」「退職金」など、より効率的な資金還流方法を、検討する価値があります。

非常勤役員の報酬

本業を持つ事業主本人に、高額な役員報酬を支払うと、高い累進税率や社会保険料などにより、非効率となる可能性があるため、配偶者などを「非常勤役員」とし、報酬を支払うことが考えられます。

配偶者などが、本業を有しておらず、「非常勤役員」の「給与所得」以外に所得がなければ、比較的低い累進税率を適用することができます。また、「非常勤役員」は、社会保険への加入義務がなく、報酬に対する社会保険料が節約できるという、メリットもあります。

法人側で、「非常勤役員」の報酬を、経費計上するためには、常勤役員と同様、「定期同額」とする必要があります。そのため、「法人成り」の際には、あらかじめ、適切な報酬レベルを設定する必要があります。

なお、「非常勤役員」は、業務の実態が限定的なことから、報酬額も、比較的低額とせざるを得ない点には、留意が必要です。

社宅家賃・出張旅費日当などの活用

「社宅規程」や「旅費規程」を定めて、「社宅家賃」や「出張旅費日当」を活用することで、税務上、効率的に、会社から個人にベネフィットを供与することが、可能となります。

これらの費用は、法人側で経費計上される一方、事業主本人側では所得税が課されないばかりでなく、社会保険料の対象ともならないため、非常に効率的な手法となります。

ただし、「社宅家賃」では、資金自体は還流させることはできないこと、また、「出張旅費日当」でも、還流できる資金は限定的であることに、留意が必要です。

退職金の活用

退職金は、通常の役員報酬と比較し、個人側での税制優遇があるため、長期的な視点での、資金還流方法として有用です。

個人が退職金を受け取る場合、勤続年数に応じて、相当額の「退職所得控除」を受けられるうえ、勤続年数5年以上であれば、「退職所得控除」を差し引いたあとの金額の1/2のみが、「分離課税」されます。そのため、退職金は、通常の「給与所得」の「総合課税」と比較し、非常に有利な取り扱いとなることに加え、社会保険料の対象にもなりません。

法人側では、役員の退職金について、妥当な金額と認められる限りは、経費として計上することができます。一般的に、妥当な金額の判断として、「役員勤続年数」や「功績倍率」に加え、「直近の月額報酬」が考慮されます。そのため、上述した「役員報酬」による資金還流と、将来的な退職金による資金還流を、総合的に勘案し、最も効率的な制度設計とする必要があります。

また、役員在職中に、「小規模企業共済」や「生命保険」などの掛金支出により、「一時的な節税」のメリットを享受し、それらの「課税の繰り延べ」が実現するタイミングと、退職金の支払い時期を、うまく組み合わせることで、税金の支払い時期をコントロールすることも可能となります。

まとめ

今回は、会社員の副業を「法人成り」する際の、法人から事業主本人への、資金の還流方法について、語りました。

「役員報酬」や「配当」で、法人から個人に、資金還流すると、高い累進税率や、社会保険料、二重課税などの問題により、税務上、非効率になってしまうことがあります。

そのため、「非常勤役員」や「社宅家賃」「出張旅費日当」「退職金」などの制度を活用し、より効率的な、資金還流を検討する価値があります。これらは、あらかじめ、制度設計しておく必要があるものも多く、「法人成り」する際には、事前に入念な検討を行うことが重要です。

さて、次回は、会社員の副業において、「法人成り」するタイミングについて、語りたいと思います。

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