【不動産所得のデッドクロス】会社員の個人所得税の考え方⑥【税金支払いを軽減するコツ】

前回の税金カテゴリーの投稿では、会社員が、「給与所得」とは別に、不動産賃貸により「不動産所得」を得る場合の、課税関係について、学びました。

<参考記事>
【レバレッジで不動産所得】会社員の個人所得税の考え方⑤【減価償却メリット】

今回は、不動産投資のCash Flowマネジメントの中でも、非常に重要な概念となる、「デッドクロス」について、語りたいと思います。

「不動産投資」には、「減価償却費」を早期に計上することで、物件取得当初は、「実際に支出する現金以上に、税メリットがとれる」という魅力がある一方、時の経過と共に「減価償却費」は減少し、いずれかのタイミングで、「デッドクロス」により、税金支払いが増加へと転じます。

税金計算上、「減価償却費」は「課税の繰り延べ」に過ぎないというのが実態であり、不動産投資においては、「デッドクロス」を適切に理解し、Cash Flowをマネジメントすることが重要になります。

デッドクロス

「デッドクロス」とは、「減価償却費」の減少により、「実際に支出する現金以上に、税メリットがとれる状態」から、「実際の現金支出ほど、税メリットが取れない状態」へ、転じる状況を言います。

デッドクロスの原因

収益性不動産を、レバレッジをかけて買う場合、借入金は、「元利均等方式」により、毎月定額返済することが一般的で、返済初期は、支払利息部分の割合が多くなります。

税務上、支払利息部分は「必要経費」となる一方、元本返済部分は、単なる借入金の返済として「必要経費」とはならず、別途、「減価償却費」を計算し「必要経費」とすることになります。

通期をトータルして考えれば、「減価償却費」と「元本返済」の累計額は一致するものの、償却と返済のスケジュールが異なることにより、経費計上と実際の現金支払いに、タイミングのズレが生じます。

中古物件などでは、耐用年数が短くなるため、物件取得当初は、「減価償却費>元本返済」となるため、「実際に支出する現金以上に、税メリットがとれる状態」となります。

ところが、これは、タイミングのズレに過ぎず、いずれ、「デッドクロス」と呼ばれる、「減価償却費<元本返済」に転じるタイミングが到来し、「実際の現金支出ほど、税メリットが取れない状態」となります。

つまり、「減価償却費」による、物件初期の節税メリットは、実際には、将来への「課税の繰り延べ」に過ぎないことになります。

Cash Flowマネジメントへの影響

物件取得当初は、早期の減価償却メリットを活用することで、賃貸収入に、税金がほとんどかからない状態となることが、一般的です。

Cash Flowマネジメントの観点からは、家賃収入から借入金返済を差し引いたCash Flowから、税金Cash outが追加で生じないことになり、手元に残るCash に余裕があるように感じられます。

ところが、上述の通り、税金Cash outは、「課税の繰り延べ」されている過ぎず、将来、「デッドクロス」により、実際の税金支払いが増加します。

これ考慮せず、初期段階でのCash余剰を、納税資金以外の、他の目的に使用してしまうと、将来、「デッドクロス」が起こった時に、資金繰りに苦しむことになります。

デッドクロスへの対策

初期段階で、税金Cash outがほとんど生じず、のちに「デッドクロス」により、税金支払いが増加してしまう問題への対応として、一番の王道は、やはり、税金相当分のCashを、しっかり手元に残しておくことです。

一方で、税率差を利用して「デッドクロス」の影響を軽減する方法や、物件の買い増しを進めることにより、「デッドクロス」の影響を先送りするといった、テクニックもあります。

税金資金確保による対応

将来の税金支払いに備え、手持ち資金を確保しておくことや、繰り上げ返済を進めることで、「デッドクロス」に備えることが考えられます。

手持ち資金の確保

「デッドクロス」の、王道対策としては、不動産賃貸の初期段階で得たCashのうち、将来の税金支払い相当分を、Cashや流動性の高い資産として、確保しておくことです。

手持ち資金を十分に確保することで、「デッドクロス」による、税金支払いの増加に対応できるのみならず、突然の修繕費などの、予想外の支出にも対応でき、より健全な財務体質を維持することができます。

借入金の繰り上げ返済

手持ち資金を寝かせておくのではなく、借入金を繰り上げ返済する方法もあります。

「デッドクロス」が到来し、将来、税金支払いが増加したとしても、繰り上げ返済により、借入金返済額が減っていれば、税金と借入のトータルCash outは、適切な水準でマネジメントできることになります。

また、繰り上げ返済により、借入金が減少し、利息支払いが減少することで、様々なリスクに下方耐性がある、より健全な財務体質となります。

税率差を利用した対応

先に高い税率で「減価償却費」による節税メリットを得る一方、後に低い税率で「課税の繰り延べ」が実現する場合には、「デッドクロス」の影響を軽減できることになります。

売却によるExitの税率

早期の「減価償却費」により、高い累進税率で節税メリットを受けたあと、物件売却により、低い税率で、「減価償却費」累計額相当の売却益に課税されるのであれば、「デッドクロス」の影響は軽減されたことになります。

5年超保有の「長期譲渡所得」となる場合、売却益に対して、約20%の「分離課税」となり、「総合課税」の累進税率より、有利な取り扱いとなることが多いです。

ただし、税率差により得たメリットを超えて、売却価格が低下し、売却益が縮小してしまうと、トータルでは損をすることになるため、売却によるExitを考える際には、そのタイミングや市況を、総合的に判断する必要があります。

個人の現在と将来の税率差

売却によるExitと同様に、個人に課される累進税率の変化により、「デッドクロス」の影響が軽減されることもあります。

例えば、現時点では、「不動産所得」に加え、高額な「給与所得」があるため、非常に高い累進税率を課されているのであれば、早期に「減価償却費」を計上するメリットが大きくなります。一方、将来の「デッドクロス」の際には、「不動産所得」以外の所得をほとんど見込んでいないと仮定すると、累進税率が低下し、税金増加額は限定的になる可能性があります。

将来の不確実は残るものの、現時点で高い累進税率を課されているのであれば、「減価償却費」のメリットを、早期に最大限とる、との考え方もあり得ます。

継続的な物件買い増しによる対応

初期段階のCash 余剰を頭金に、更にレバレッジをかけて、物件を買い増し続けることで、常に「減価償却費>元本返済」の状態をキープする方法もあります。

先行物件が「デッドクロス」に突入したとしても、後発物件の「減価償却費」を計上することで、ポートフォリオ全体では「減価償却費>元本返済」とし、「デッドクロス」の影響を軽減することができます。

この方法は、資産規模を拡大させたいとの、投資家心理とも、方向性が一致します。ただし、追加的な資金調達が限界に達するなどして、資産規模拡大に歯止めがかかると、「デッドクロス」の影響が、一気に顕在化してしまいます。

そのため、基本的には、「デッドクロス」問題の先送りに過ぎないため、資産規模拡大の過程においても、税金資金の確保や、売却等による税率差の利用などの、本質的な「デッドクロス」対策を、常に、頭に留めておく必要があります。

まとめ

「不動産所得」が、節税効果が高いと言われる理由は、早期に「減価償却費」を計上することで、「実際に支出する現金以上に、税メリットがとれる状態」になり、税金支払いが限定的となる点です。

ところが、これは、「課税の繰り延べ」に過ぎず、いずれ、「デッドクロス」が到来し、「実際の現金支出ほど、税メリットが取れない状態」となり、税金支払いが増加します。

そのため、Cash Flowマネジメントを最適化するためには、将来の納税資金の確保や、物件売却でExitし、税率差を利用して「デッドクロス」の影響を軽減する方法などの、税金プランニングが、非常に重要になります。

次回は、税制改正により規制される、海外不動産投資を通じた節税方法について、語りたいと思います。

<次回記事>
【海外不動産による節税】会社員の個人所得税の考え方⑦【減価償却費の赤字は通算不可に】

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